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【日本映画】木下恵介監督の映画づくりの原点を描いた佳作。「はじまりのみち」(2013年・原恵一監督)

今回はAmazonプライムで見た「はじまりのみち」(原恵一監督)をご紹介します。

木下恵介監督の体験した実話をベースにした作品

数多くの名作映画を残した木下恵介監督の生誕100周年を記念して制作され、
2013年初夏に公開された作品です。

監督は「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」や
「河童のクゥと夏休み」といった名作アニメ映画を手がけてきた原恵一監督。

ストーリーは、戦時中に木下恵介監督の体験した実話をベースにしています。

映画界に政府から戦意高揚の国策映画づくりが要求された時代。木下恵介が昭和19年に監督した『陸軍』は、その役割を果たしていないとして当局から睨まれ、次の映画の製作を中止にさせられてしまう。夢を失った木下は松竹に辞表を提出、病気で倒れた母が療養している浜松市の気賀に向かう。 失意の中、母に「これからは木下恵介から本名の木下正吉に戻る」と告げる。戦局はいよいよ悪化の一途をたどり、気賀も安心の場所ではなくなる。恵介は、山間の気田に疎開することを決めた。(Amazonプライムより)

戦時中を舞台としている映画ですが、派手な戦争や空襲シーンはありません。
メインとなるのは監督、兄、便利屋の三人が
リヤカーに病気の母親を乗せて山越えするシーン。

それも何か特別な事件が起こるわけではなく、あくまでも淡々と進みます。
しかし見ているうちにいつの間にか引き込まれていくんです。
そして木下恵介と便利屋が清流を前に話をする場面では、
実際の「陸軍」のラストシーンが効果的に使われ、熱いものが込み上げてきました。

木下恵介役の加瀬亮と名もない便利屋役の濱田岳、
そして母親役の田中裕子の演技が光っています。

新たな想いで見れる名作のダイジェスト

終盤、戦争が終わった後に制作された木下恵介監督作品が
ダイジェストで流れるシーンがあります。
Amazonのレビューを見ると、冗長という指摘もありましたが、
このダイジェストもこの映画の大きな見所。

「お嬢さん乾杯!」「破れ太鼓」「カルメン故郷に帰る」「二十四の瞳」
「野菊の如き君なりき」「喜びも悲しみも幾歳月」
「楢山節考」「笛吹川」など、名作の数々。

「陸軍」のラストに込めた想い、母親や兄など家族の支え、
映画に対する情熱などを見せられた後に流れる
これら映画のダイジェストはまた格別です。

「破れ太鼓」で阪妻がカレーライスを食べるシーン。
「二十四の瞳」の先生と生徒たちのシーン。
「楢山節考」で子が老いた母親を背負うシーン。
そして最後の「新・喜びも悲しみも幾歳月」の
海上保安庁観閲式で船上の我が子の姿を見つけた大原麗子がつぶやく一言。
それは「陸軍」のラストシーンと呼応して、
半世紀近くたっても変わらない木下監督の想いが伝わってきます。

私自身30年以上前に見た懐かしいシーンの数々を見ながら、
そうか、だから木下恵介監督はこんな人々の記憶に残る
映画を作れたのだなと納得させられました。

<予告編>

<映画データ>
◎監督:原恵一
◎出演:加瀬亮、田中裕子、ユースケ・サンタマリア、濱田岳、斉木しげる、光石研、濱田マリ、藤村聖子、松岡茉優、相楽樹、大杉漣、山下リオ、宮崎あおい
◎再生時間:1時間36分

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