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【BOOK】1本の映画が引き金となった組長暗殺事件の真相に迫る骨太のノンフィクション。「映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件」(伊藤 彰彦著)

1977年4月13日の午後1時過ぎ。福井県・三国町の喫茶店「ハワイ」で、この地で勢力を振るっていた川内組組長・川内弘が4人の男に襲われ拳銃で暗殺される事件が起こります。奇しくもこの喫茶店は、その年の2月に公開された東映映画「北陸代理戦争」で川内組長がモデルとなった主人公がヒットマンに襲われるシーンに出てきた店でした…。

そんなフィクションと現実がシンクロした希有な映画「北陸代理戦争」が、どのように企画され、シナリオが書かれ、撮影され、なぜこのような事態が引き起こされたのか、を描いたのがこの本です。

本書には3つの挑戦が描かれています。一つはモデルとなった川内弘の巨大組織“山口組”に対する挑戦。二つ目が東映の脚本家・高田宏治の「仁義なき戦い」で知られる笠原和夫に対する挑戦。そして親分を殺された川内組の若衆たちが敵を取ろうした挑戦です。

中でも最も興味を引かれたのが、筆者が「事件にいたる“奈落”の落とし蓋を開けた」とする脚本を担当した高田宏治に関する記述。当時の東映映画の中にあって“鬼っ子”とも言うべきこの作品の脚本の第一稿と決定稿を比較しながら、完成に至るまでの経過を描いていく部分は出色です。特に第一稿で主人公(松方弘樹)の愛人(野川由美子)には弟が二人いる設定となっていたのを、決定稿では弟と妹がいる設定に変更する「性転換手術」によって、脚本の緊張感と完成度を高めたというエピソードは前半のクライマックス。実際に映画を見ましたが、「弟」を「妹」にしたことにより、物語は深みを増し、演じた高橋洋子は主役の松方弘樹に負けないぐらいの圧倒的な存在感を放っていました。その後「極道の妻」シリーズのほとんどの脚本を手がけ、東映の屋台骨を支えるヒットメーカーとなっていく高田の若き日の苦悩と挑戦の日々が鮮明に描かれています。

その後の撮影で次々と襲いかかるトラブルをどうにかかわしながら完成にこぎつけるまでの監督・深作欣二と役者、スタッフたちの奮闘ぶり、さらには事件後に残された川内組員達のリベンジにかける執念の日々も、関係者への綿密な取材に基づいており、読み応えたっぷり。久々に骨太のノンフィクションを堪能しました。

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