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【BOOK】1970年代カルチャーの仕掛け人。伝説のDJを描いた渾身のノンフィクション。「1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代」

ユーミン、石川セリ、八月の濡れた砂、野田秀樹…。1970年代に、当時の10代後半から20代前半の若者に熱狂的な支持を受けたミュージシャンや映画、演劇家たち。彼らを発掘し、紹介し続けた深夜放送がありました。その伝説の番組「パックインミュージック」のパーソナリティ・林美雄を中心に彼を取り巻く人たちを描いたのがこの本「1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代」です。

この番組をリアルタイムで聞いていたので、語られる一つひとつのエピソードが当時の記憶を呼び起こしてくれて一気に読み終えました。私自身は1972年に故郷の松江でこのパックインミュージックを聞き始め、日本映画をはじめ、林美雄ワールドに強い興味を持つようになりました。そして1978年に上京し、それまで地方にいて見ることができなかったうっぷんを晴らすように、文芸座、文芸地下、上板東映などの映画館に入り浸り、年間300~500本のペースで映画を見ていました。「八月の濡れた砂」は映画館で28回見た覚えがあります。石川セリのアルバムやユーミンの「ひこうき雲」などは今も持っています。この本を読んで、1970年代の自分にとって、この人の影響力のいかに大きかったかを改めて実感しました。

もう一つこの本で印象に残ったのが、ユーミンが「ルージュの伝言」をきっかけに国民的人気歌手になっていくところを描いた部分。「ひこうき雲」でデビューしたユーミンは、林パックのリスナーをはじめ、一部の若者の熱狂的な支持を受けます。そしてあるリスナーが会長となってファンクラブが結成されます。デビューしたての前途有望な女性シンガーと彼女の歌に共感を覚え活動を支えるファンクラブ。でもその蜜月関係は長くは続きませんでした。それまでの曲とガラッと曲調が違う「ルージュの伝言」を聞いたファンクラブ会長は「これは私たちのユーミンの曲じゃない」という感想を持ちます。プロとしてあくまで売れることにこだわって、売れ筋の曲をリリースしたユーミンと、それに違和感を覚えるファンクラブ会長。やがてそのファンクラブは自然消滅し、一方のユーミンは国民的シンガーへと駆け上っていきます。メジャーになるというのは、マイナー時代のコアなファンを振り切っていくことなのだなと思いました。久しぶりに「ひこうき雲」と「ミスリム」をはじめ、1970年代に心揺さぶられた曲を聞いてみたくなる一冊でした。

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