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【BOOK】「久生十蘭作品集」73作品の中で印象に残った短編3作品をご紹介します。

5月末から読んでいた「久生十蘭作品集」をほぼ3ヶ月間かけて読み終わりました。久生十蘭(ひさおじゅうらん/1902年4月6日~1957年10月6日)は、昭和10年代から30年代にかけて活躍した小説家。推理もの、ユーモアもの、歴史もの、現代もの、時代小説、ノンフィクションノベルなど多彩な作品を手がけ、「多面体作家」「小説の魔術師」との異名を持ちます。そして、1952年には、「鈴木主水」により第26回直木賞を受賞しています。この全集に収められているのは73作品。その中で印象に残った短編3作品を挙げておきます。

海豹島

舞台はオホーツク海に浮かぶ絶海の孤島「海豹島(かいひょうとう、露名:チェレニ島、ロッペン島)」。この島はオットセイの繁殖場でもあるのですが、そのオットセイのグロテスクとな生態、そして主人公がその島で出会った不気味な男の描き方が見事。歪んだ恋愛に加えて、ホラー的な要素もあり、秘境怪奇小説とでも言える作品です。

黄泉から

主人公・光太郎は従姉妹のおけいという女性に慕われていますが、一人でパリに旅立ちます。その後おけいは婦人軍属となりニューギニアで亡くなってしまいます。帰国した主人公は、ある日突然訪ねてきた見知らぬ女性からおけいの死の様子を聞かされます。死の間際、雪が見たいというおけいの希望に応え、ニューギニアで部隊長の見せた光景は…。幻想的で美しい作品です。

昆虫図

主人公・青木は貧乏画家。隣に住んでいる同じく絵描きの伴と交流がありますが、ある日旅行から帰って久々に伴を訪ねると、一緒に住んでいたはずの伴の細君の姿が消えています。そして伴の部屋の壁や天井には一面に銀蠅が…。昆虫の描き方がリアルで、その様子を想像するとゾクッとします。

これら全てが今まで読んだどんな小説にも似ていない唯一無二の味わいを持つ作品ばかりで、何度読んでも面白い。この3作品の他にも「野萩」「予言」「墓地展望亭」など、印象に残った作品が数多くありました。また、この作品集には収録されていませんが、「湖畔」や「ハムレット」といった評判の高い作品もぜひ読んでみたい!

<参考にしたサイト>
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