――うちの会社ではすでに家をご購入いただいたお客様を大切にしています。そのために専任のスタッフを定期的に訪問させて、どこか不具合はありませんかと聞いて回っています。それ自体が利益を生むことはほとんどありません。むしろスタッフの人件費分持ち出しになるぐらいです。でも、そうやってうちの会社のファンになってもらうことが将来につながると考えています。
この本を読んで、そう語っていたある不動産会社の社長さんの話を思い出しました。
伝えたいことが伝わらない時代。
この本のテーマは、情報があふれる現代社会で、どうすれば自分が伝えたい情報を伝えたい人に伝えることができるか。
筆者は今、メーカーの宣伝担当や広告代理店の広告制作者をはじめ、販促、営業、メディアなど「伝える」仕事に携わってきた多くの人たちが自信をなくしていると指摘します。昔なら、いいものを作ってテレビで大量にCMを打てば売れたのに、その手法が今ではほとんど通用しなくなっているのです。
その要因はインターネットの普及に伴う情報量の急増。そして2010年以降に急速に普及したSNSによって、これまでの情報に加えて、仲間から発信される情報が激増し、事態は加速していると言います。しかも動画サイトでは24時間365日、世界のどこかで面白い動画やリアルな映像が生み出されており、宣伝担当や広告制作者にとって、今や世界中の素人&玄人クリエイターがライバルなのです。
友人知人の言葉こそ現代の最強メディア。
じゃあどうすれば伝わるのか?
著者はその前に情報の受け手となる生活者を、以下の2つに切り分けて考える必要があると指摘します。
◎ネットを日常的に使っている人
◎ネットを日常的に使っていない人
普段ネットを当たり前のように使っている人には想像できないかもしれませんが、日本でネットを日常的に使っていない人は、韓国の総人口を上回る約5670万人にも及ぶそうです。そして検索を日常的に利用していない人は約6000万~7000万人。ソーシャルメディアを利用していない人は約7000万人と、国民の半分ぐらいいるのです。
その上で、この情報洪水の時代で「伝えたいことを伝える」ための最強メディアは友人知人の言葉だと指摘します。
例えば掃除機だったら、友人や知人を介して「A社の除機を使ったらめちゃめちゃゴミが取れた」といった生の声。それをネットならSNSで、非ネットならクチコミで拡散する方が、大量にテレビCMを流すよりもはるかに有効だと言うのです。
商品を使っている人にファンになってもらうことが大切。
となると、ある人に「この商品はいいよ」と言わせるために、宣伝担当者や広告制作者は何をしなければいけないか?
そのためにはまず、その商品を買って使っている人にファンになってもらうことが大切であると述べています。
従来、メーカーなどはすでに商品を買ってくれた人よりも、これから買ってくれそうな人に商品をアピールすることに躍起になっていました。でも今は、すでに買って使っている人を大切にすることでファンになってもらい、そしてそのファンが友人知人に向けて「この商品を使っているとこんないいことがある」と自然に発信するよう仕向けることが何より伝わる方法だというのです。
そのための方法として筆者は、「ファンをもてなし特別扱いする」など7つの方法を挙げています。
確かに、時間はかかりますが、今商品を使っている人を大切にした方が、長い目で見た場合は絶対に良さそうです。求人広告制作に携わり、どうすれば「伝わるのか」と日頃から考えている私には非常に参考になりました。